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Yの構図

島田荘司の吉敷もの。上野に同時刻に到着する2つの新幹線に男女それぞれの変死体が見つかる。心中ともとれるが、不審に感じた吉敷刑事が捜査を始めるという話。背景にいじめがあり、社会派といわれる分類になっている。確かに最後にいじめに対する警鐘があり、そこに大きな比重が置かれていることがわかる。個人的には社会派はあまり好きではない。確かに社会的な背景は動機に大きく関与するが、殺人は最終的には個人的なものであり、その動機は推理小説において大きな要素の1つだが、それを社会のせい、という風に見せてしまうと、どうもシリアスさが薄れるように思えてしまう。話としては、各登場人物の行動に納得いかない部分が多く、プロットとして無理やりな感じを受けた。例えば、同行する菊池刑事は犯人と目された女性に好意をもっており、それを要所で示すが、結局本筋にあまり関係がなく、不要な要素だったように感じる。また無能な感じに書きたいのか、なんとなくちぐはぐで、実はこいつが黒幕では、という考えも少し浮かんだ。最後小学校に向かうときに道に迷う描写とかも、余計だったように感じた。その女性の夫についても、刑事さんは考え違いをしているといっていろいろと嫌味を言いつつ、その正解は教えない。自分にも事情があるというが、結局その秘匿のせいで吉敷は真相把握に遅れ、結果悲劇が1つ増えることになった。あとから考えても、彼が握っていた情報を刑事に隠す理由がいまいちわからない。むしろ自分のこどもがいじめで自殺したのだから、その真相を警察に徹底的に解明させたいというのが普通では、と思う。冒頭の謎の提示、中盤のサスペンスはいいが、最後の解決が、意外性は大きいが、細部で納得できない点が多く、カタルシスとはならなかった。以下暫定順位。

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  2. Yの構図
  3. 眩暈

クリスティーに脱帽

まずこの本はタイトル詐欺。クリスティーに触れているのは、たくさん掲載されている評論のうち、たった1つだけ。他の部分でも、ほんの少し触れる機会はあるが、実質300ページ中の15ページ。さらに言えば、価値を認めてはいるが、この本の中で本当に持ち上げられているのはポー、次点でチェスタトン。たぶん、クリスティをタイトルに入れたほうが売れるって判断でこうなっているのだろうなと思う。

ただ内容としては非常に面白く、自分がなぜ小説でなく推理小説に非常にひかれるのか、言語化されているのがよかった。「トリックを超越せよ」というくだりで、「たとえ使い古された謎を使用しても、その構成や表現に文学として優れたところがあるならば、十分存在価値がある」というのはまさにその通りだと思う。トリックや結末がわかっていても読んでしまう推理小説が優れているのは言うまでもない。またミステリーの歴史的な変遷や、各作家の位置づけなども整理できたので、今後の読書にも生かせると思う。またその意味では、乱歩が感銘を受けた小説がいろいろと紹介されているので、未読のものをメモして読んでいこうと思う。

一応クリスティーについての記載を拾っておくと、彼女の特異な点は、年々作品の質が向上しているところだという。推理小説というジャンルでは、どうしてもアイディア勝負な部分も大きく、通常初期の作品がその作家にとってベストであることがほとんどだが、クリスティーに関しては後期のほうがよい(と乱歩は評価している)とのこと。また彼女の魅力として、「一口に言えば、気の利いたメロドラマとトリックの脅威の組み合わせ」であるとし、トリック自体の目新しさはないが、その組み合わせに妙がある、としている。これは自分も同意見で、まさにトリックを超越した文学になっている。

眩暈

島田荘司の、御手洗潔もの。一見ただの空想に思える手記から、実在の犯罪をあぶりだしていく内容。島田荘司はこのパターンが好きなのか、他にもいくつかあった記憶。ねじ式ザゼツギーとか。本作の内容はちょっと盛り込みすぎかなと思うが、まあ面白くは読めた。ただ女の人の発狂具合とかは、さすがにちょっと説明が厳しいかなと。「女の人なんてあんなもの」という説明だけだと、さすがに女の人から反感買ってしまいそうだが、どうなのだろうか。社会派要素というか、環境汚染や薬害、農薬などの問題への説明がちょっとくどいのは気になったが、これは当時のはやりという面もあるのかもしれない。主犯格のメンバーはかなりぽっと出で、かつ後処理だけをやっているのに等しいが、やり方にも首をかしげる点が多く、アイディアやこじつけ先行で、あまり犯罪部分へのやる気は感じないというのが正直な感想。御手洗モノとしては面白く読める。

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  2. 眩暈

順位としてはこうなる。これは特に迷う要素なし。ネタとしてはいいと思うが、クリスティみたいにさくっとシンプルにしてほしい。余計な要素が多すぎる。

ゼロ時間へ

アガサ・クリスティの推理小説。バトル警視が探偵役。トリックや舞台設定に特殊なことはないが、人物の描写が非常に細やかで、キャラクターが立っている。久しぶりに読んだが、タイトルから内容を思い出せなかったが、読み始めると細かいところまでよく覚えていた。特にキャラクターの造形はよく思い出せるところが、この小説の良さを物語っていると思う。個人的には杉の棺と似たところがあると思っていて、どちらも大好きな作品。

以下暫定順位。これから読んだ本をどんどん順位付けしていく。

  1. ゼロ時間へ