島田荘司の吉敷もの。上野に同時刻に到着する2つの新幹線に男女それぞれの変死体が見つかる。心中ともとれるが、不審に感じた吉敷刑事が捜査を始めるという話。背景にいじめがあり、社会派といわれる分類になっている。確かに最後にいじめに対する警鐘があり、そこに大きな比重が置かれていることがわかる。個人的には社会派はあまり好きではない。確かに社会的な背景は動機に大きく関与するが、殺人は最終的には個人的なものであり、その動機は推理小説において大きな要素の1つだが、それを社会のせい、という風に見せてしまうと、どうもシリアスさが薄れるように思えてしまう。話としては、各登場人物の行動に納得いかない部分が多く、プロットとして無理やりな感じを受けた。例えば、同行する菊池刑事は犯人と目された女性に好意をもっており、それを要所で示すが、結局本筋にあまり関係がなく、不要な要素だったように感じる。また無能な感じに書きたいのか、なんとなくちぐはぐで、実はこいつが黒幕では、という考えも少し浮かんだ。最後小学校に向かうときに道に迷う描写とかも、余計だったように感じた。その女性の夫についても、刑事さんは考え違いをしているといっていろいろと嫌味を言いつつ、その正解は教えない。自分にも事情があるというが、結局その秘匿のせいで吉敷は真相把握に遅れ、結果悲劇が1つ増えることになった。あとから考えても、彼が握っていた情報を刑事に隠す理由がいまいちわからない。むしろ自分のこどもがいじめで自殺したのだから、その真相を警察に徹底的に解明させたいというのが普通では、と思う。冒頭の謎の提示、中盤のサスペンスはいいが、最後の解決が、意外性は大きいが、細部で納得できない点が多く、カタルシスとはならなかった。以下暫定順位。
- ゼロ時間へ
- Yの構図
- 眩暈